■生活保護費2億5千万円詐欺の深層
前回の記事の続きです。
事件の最大のポイントは、まさに片倉容疑者が元暴力団員であることにあったと考えられます。
市職員の「見るからに『それ風』で威圧的だった」という言葉がそれを象徴しています。
彼は、要求に応じないと大声を上げて恫喝、脅迫したといいます。
暴行・暴力もちらつかせたのでしょう。
まさに、ヤクザ者の十八番の手です。彼らの専売特許です。
そのため、担当者たちは皆、ビビってしまったのです。
彼の言動、態度に恐れをなして、担当者は皆、怖じ気付いてしまったということです。
役人根性丸出しというわけです。
弱い者には強く、強い者には弱くということです。
弱い者をくじき、強い者にはへつらうということです。
公共事業を請け負う土建業者と官僚との関係にも、しばしばこのような構図が見られます。
概して、役人は目下にはふんぞり返るけれども、ごろつきの前には縮み上がると言われています。
札幌市の主治医も同じようにビビってしまったわけです。
悪に屈してしまったわけです。
そこで、脅されるがままに、まがいものの診断書を作成してしまいました。
場合によったら、共犯の疑惑さえ持たれかねません。
市長も、異常を察していたはずです。
もし、このような部下の重大なスキャンダルを看過していたとすれば、ガバナンスの責任を問われます。
行政組織のトップにある者として当然です。
市政に目を配り、市民の税金を預かり守る義務のある市の議員たちも、このような異常に早々に気付かなかったのでしょうか?
看過したのであれば、職務怠慢とさえ言えます。
責任は免れないでしょう。
片倉容疑者のような悪逆なことを行う人間性は、どうして身に付いたのでしょう?
それは、なにより彼の育ちに求められます。
まず、親の愛に恵まれなかったのでしょう。殺伐とした家庭で育ったということです。
人に迷惑をかけるな、人を悲しませるな、などというモラルは全く教えられなかったに違いありません。
もちろん、親にもそのようなモラルはなかったはずです。
彼は、親から暴力的仕打ちも受けていた可能性も大いにあります。
親から受けた暴力は、他人に転嫁され、帳尻を合わせられるからです。
親の本当の愛情に恵まれていれば、人を攻撃し傷つけるような非道は行いません。
彼は、幼い頃から長い間、周りの人の愛情にも恵まれなかったのでしょう。
それが彼の心を一層荒ませ、粗暴にしたはずです。
つまり、彼は不幸で悲惨な育ちをしたということです。
そうでなければそんな阿漕(あこぎ)なことをするはずがありません。
しかし、このような悪徳、背信は、社会的にも大きな影響を及ぼしていきます。
どのような不利益、害悪をもたらしていくのでしょう。
次のようなことが起こりえます。
・社会にモラルハザードを蔓延させ、人々の心を荒ませる。
このような悪事は、放置されれば放置されるほど、人々の法令順守に対する気持ちを劣化させます。
自分も甘い汁を吸おうという不届き者も現れるでしょう。
横領が罷り通るなら、額に汗して働こうという勤労意欲も萎えます。
・本当に生活に困窮する人々に対する風当たりを強くする。
つまり、生活保護を必要とする人たちにしわ寄せが行くということです。
保護費の支給審査は、過度に厳格な方向に振れるかもしれません。
市の生活保護費の資金を2億数千万円も毀損してしまった分、生活困窮者への手当てが削られるのは避けられないでしょう。
・過大な支出のツケは、住民に回される。
結局、無駄な出費は、市民・国民の負担増で埋め合わされることになります。
住民税、固定資産税など各種税金や、住民サービス料金の引き上げです。
住民へのサービスが低下することも考えられます。
教育、福祉、医療、上下水道、公共施設などの公共サービスの削減です。
たとえば、上下水道費が上乗せされます。
子供たちの給食のおかずが減るなどということもありえます。
全国の自治体の財政悪化には、このようなことも多く背景にあるのではないでしょうか?
不祥事は、財政の危機の加速要因となり、住民に大きな負担を強いるということです。
いわば、「夕張症候群」です。
それは、将来の子供や孫の世代へ綿々と続いていくでしょう。
暴力団は、言い掛かり、こじつけのプロです。
黒いものも、白だと言いくるめてしまいます。
一旦相手が譲歩すると、徹底的につけ込み、骨の髄までしゃぶり尽くすといわれています。
しかし、そうであっても、毅然とした担当者が一人でもいれば、状況犯全く変わっていたでしょう。
不条理に対し、断固とした姿勢を示すことが必要だったということです。
それが早ければ早いほど、被害は少なかったでしょう。
多額の税金の不毛な支出は、抑えられたはずです。
市は、片倉被告らに詐取金の返還請求訴訟を起こす方針を表明しています。
しかし、残念ながら回収の見込みはないでしょう。
もう、2億5千万円近くの税金は返ってこないということです。