◆「株主は、バカで、浮気者で、無責任」は正しいか?
前回に続いて、北畑発言を取り上げ、具体的なコメントを加えてみます。
まず、「会社は、株主ではなく、社長以下の社員、取引先、地域住民が協力しあって利益を生み出す」ということについては、まさにその通りです。
会社は株主の専有物ではありません。株主だけでは何もできません。
関係者(ステークホルダー)が一体となってはじめて存立し、社会的な意義を帯びます。
とりわけ、生産の直接的主体である、労働者は重要です。土台を為します。
この点、株主は資金を出していても、直接的な生産活動を担っているわけではありません。
そればかりか、彼らの株主資本(≒自己資本≒純資産)も、会社の資産のすべてを形成しているわけでもありません。
資本の中には、生産活動によって蓄積した内部留保が含まれるし、資金調達は銀行などからの借入によってもなされます。
しかも、大きな企業であればあるほど、株主の数は膨大になり、各個人の持ち株比率(保有割合)は小さくなります。
また、「デイトレーダーは、朝買って夜売り、会社のことは何も考えない」というのも事実に即しているでしょう。
会社の利益を優先すれば、資本(株式)を自在に売却することは否定されなければならないからです。
それは、株価を下げ、資本を毀損し、資金調達をより困難にするように作用します。
デイトレーダーには、会社の命運に対しては、しばしば無情であることが求められます。
沈む船(会社)からは、我先に逃げようとすることが自分の利益に合致します。
その意味で、会社の運営、将来に対しては、無責任になり勝ちです。
会社を踏み台にしながら、利益をマックスにするよう動きます。
したがって、「(会社の)所有者というのは納得感がえられない」、および「デイトレーダーには無議決権株でいい」という発言は正当性を得ることになります。
仮に、デイトレーダーが議決権を行使することがあっても、それは長期的な会社、ないしステークホルダー(関係者)のためではなく、単に自己利益のためです。
それ以上に、原則的に、デイトレーダーは議決権自体に関心がないでしょう。
短期売買のために数日間で移りゆく(生成消滅する)権利には、いちいち構っていられないというのが、デイトレーダーの本音です。
北畑氏の「会社のことは何も考えない」、「浮気者」、「無責任」、「強欲」という批判は的を射ています。
ただ、それらの資質は、「能力がない」、「バカ」ということと必ずしも連動しません。
デイトレーダーに経営能力がないということは、必ずしも言い切ることはできないでしょう。
検証されていないからです。
中には、経営者の立場にあれば、優れた才能を発揮していた人間もいるかも知れません。
確かに、株式トレード(取引)は、資金さえあれば、何の知識が無くても参加することができます。
幼児でも株の売買はできます。
ただ、その場合は限りなく、賭博(ギャンブル)に近くなるでしょう。
行き当たりバッタリで、予感だけを頼りの馬券買い、宝くじ購入と同じです。
当たるも八卦、当たらぬも八卦、全ては時の運というわけです。
しかし、より的確な投資判断をして、利益を上げようとすれば、どうしても知識、情報、判断力は必要となります。
それらは多ければ多いほど、そして適正に活用されればされるほど大きな効果を上げられます。
それは、経済成長率、物価上昇率、失業率、財政収支、経常収支などのファンダメンタルズ(基礎的要因)や、金融、財政などの経済政策ばかりではありません。
次のような指標も理解し、絶えず頭に入れておく必要が生じます。
よりよいパフォーマンス(投資成果)を上げるためには、それらをチェックし、分析し、評価を下さなければならないわけです。
では、マクロ的(全体的)に、重要とされている指標を具体的に上げてみましょう。
次のようなものがあります。
株価市場(日経平均、JASDAQなど)の動向/チャート/業種別株価指数/先物市場の清算値/移動平均線/騰落レシオ/対外証券投資/景気動向指数(内閣府)/企業景気予測調査(内閣府)/月例経済報告(内閣府)/産業活動指数(経済産業省)/設備稼働率(経済産業省)/全産業供給指数(経済産業省)/鉱工業生産動向(経済産業省)/建設総合統計(国土交通省)/雇用動向・有効求人倍率(厚生労働省)/消費者物価指数(総務省)/対外対内証券売買状況(財務省)/消費者信頼感指数(全米産業審議委員会)/製造業景況指数((全米供給管理協会))/住宅価格指数(米国調査会社)/外国為替市場の動向/政治・社会情勢(例えば、イラク戦争、民族独立運動、オリンピックなど)/警戒感、不安感などの心理要因/
また、ミクロ的(個別企業的)には、次のような指標が主要な分析手段となります。
PER(株価収益率)/PBR(株価純資産倍率)/ROE(株主資本利益率)/配当性向/自己資本比率/株式時価総額//財務の健全性/キャッシュフロー/売上高推移/損益推移/チャート(株価推移)/ボラティリティ(株価変動率)/レーティング(銘柄格付け)/一目均衡/移動平均線
トレーダーは、これらの情報、指標に常時目を光らせていなければなりません。
脳を回転させていなければなりません。
やはり、「バカ」では利益を上げるためのデイトレードは難しいでしょう。駆逐されてしまいます。
日本の産業行政、経済政策のトップにある人間がこれらのことを知らないはずはありません。
彼は、日本でもトップクラスの高学歴で、学識豊か、頭脳明晰な人間であるはずです。(人格、品性、人間的な資質は分かりませんが…)
ではなぜ、彼は前回、冒頭で紹介したような発言をしたのでしょう?
以下、次回へ