▲バランスシートで見る信用創造
信用創造という言葉がマスコミや経済記事をにぎわしています。
サブプライム問題に発する金融危機の高まりが背景にあります。
この信用創造という言葉を理解することは、サブプライム問題の理解を深めるためには重要です。
これについて触れてみることにします。
信用創造をバランスシート(貸借対照表)との関係で捉えることにします。
理解しやすく、また必要であるからです。
最初に、バランスシートの基本を確認することにします。
バランスシートでは、右側の貸方(負債の部+資本の部)は、資金の調達方法とその金額を表します。
左側の借方(資産の部)は、資金の運用方法とその金額を表します。
右側から左側にお金が動くので、右側は貸方、左側は借方と覚えても良いでしょう。
※左右の貸方と借方の金額は常にバランスする(等しい)ので、バランスシート(B/S)と称されます。
※個人事業主を対象とする青色申告決算書では、「元入金」が資本金に当たります。
青色申告決算書の「青色申告特別控除前の所得金額」は、企業会計の「税引き前当期利益」に相当します。
負債は、借入が中心です。いわゆる債務です。
資本は、投資されたお金です。
債務には、元本の返還義務がありますが、投資には元本の保証義務はありません。
投資したお資金(株式)は、会社が潰れれば無になります。
「ある時払いの催促なし」に似ています。
ギャンブル資金と同じです。
会社にとってはまるで自分のお金のような存在なので、自己資本などといわれます。
(これに対して、負債は他人資本といわれる。)
債務には返済義務があるといっても、限界はあります。
会社が倒産した場合、債権者が回収できるのは、資産が残っている場合だけです。
残っている資産の大小によって、受け取れる分配額が決まります。
前置きが長くなりましたが、本題に進みます。
バランスシートは、最も単純化した形をモデルにとります。
可能な限り、理解を容易にするためです。
当初、20億円の投資を受け、80億円を借り入れたとします。
いずれも現金で調達したとします。
バランスシートは、下のようになります。(以下、単位は億円)
なお、負債の部は、銀行などの場合、預金などが大きな割合を占めます。(→静岡中央銀行)
A 資産の部 負債の部
現金 100 借入(債務) 80
資本の部
資本金 20
このうち、現金100億円を人に貸し出したとします。
するとバランスシートは、次のようになります。
B 資産の部 負債の部
貸出(債権) 100 借入(債務) 80
資本の部
資本金 20
通常は、この貸し出しされたお金が再び、預金などとして金融機関に還流し、それが再び貸し出されることで、信用が創造されます。
拡大再生産と同じメカニズムです。
基本的には、次のような循環になります。
銀行 → 企業 → 取引先 → 銀行 → …
貸出 支払 預金
もう一つ別の方法があります。
それが、債権の現金化です。つまり、貸出債権の売却です。
この貸出債権を売却し、現金化すると、バランスシートは再びAのようになります。
そこで、現金をまた別の人に貸し出せば、バランスシートは再びBのようになります。
このA→B→A→Bを繰り返せば、その都度、貸出(信用)は創造されます。
貸出債権を売り、信用創造をする度に、債権者は増えます。
世の中にある流動性(現金)は、どんどん貸出債権に変わっていきます。
債権・債務の関係は、拡大していきます。
銀行などの貸出人としては、貸出債権を売って現金化してしまえば安心です。
債権は不良化する恐れがあるからです。不良債権です。
このババ(ジョーカー)、つまり不良債権を最後に手にするものが損失を被ることになります。
ただし、貸出債権を現金化すれば、貸出による利息は得られません。
貸出債権から金利を受け取った場合、バランスシートは次のようになります。
金利は1割とし、現金で受け取ったものとします。
資産の部 負債の部
貸出(債権) 100 借入(債務) 80
現金 10 資本の部
資本金 20
剰余金 10
通常、貸出債権はそのままの形では売却されません。
たいてい、分割され、他の金融商品(株式や国債など)と組み合わせて販売されます。
これがまさに、債権の証券化です。
サブプライムローンはこのようにして、分割され、組成され、世界中に潜行・拡散していきました。
サブプライム問題に発する現在の金融危機と経済の混乱の恐れは、この信用創造が行き過ぎたところに最大の根があるといってもいいでしょう。