▲サブプライム問題の救済策はどれが最も有効か?
前回の記事で、サブプライム問題によって拡大した金融機関の損失と、次々打ち出される救済策についてまとめてみました。
今回は、これに対し簡単にコメントを加えてみます。
合わせて後半で、最も効果的な解決策について私見を述べてみることにします。
深刻化する金融危機、経済混乱への今までの対策は、次の3つに集約できました。
金利の引き下げや凍結 減税 資金供給(資本増強など)
このうち、金利政策(引き下げ)、および財政政策(減税)は、直接的な救済策ではありません。
喘ぐ債務者や傷んだ金融機関にダイレクトに支援の手を差し伸べるものではありません。
これらは、景気を刺激し、浮上させることによって、金融危機を打開し、状況を好転させようとするものです。
金利引き下げは、借入を容易にし、消費や設備投資を増やします。
低金利への固定(凍結)は、金利負担を和らげます。
減税は、家計の消費需要を増やしたり、企業の利幅を広げます。
これらは、雇用へも好影響を及ぼします。
しかし、いずれも、経済全般に対する包括的な浮揚策です。
集中的にサブプライム問題に照準を定めるものではありません。
従って、即効的、根治的な効果には限界があります。
効果は極めて緩慢でしょう。ほとんど得られないかもしれません。
これは、日本のバブル崩壊後の失われた10年を振り返っても容易に理解できるはずです。
とくに、ブッシュ大統領の減税策は大いに疑問です。
これは、個人に対する11兆円程度の「戻し減税」と、企業に対する5兆円程度の法人税減税が柱です。
個人へは、1人当たり3~5万円前後の小切手を郵送するという内容になっています。
企業や国民全体への単なるバラマキです。
いかにもブッシュらしい発想と言えます。
この恩恵は、高いローン金利のために窮地に陥っている人々に手厚く届くわけではありません。
日々の暮らしに全く窮していない富裕層の財布にも入ります。
小切手を受け取った消費者の中には、不必要な消費に使い切る人々もいるでしょう。
過剰消費です。悪く言えば、浪費です。
多くのアメリカ人の体質として染みついています。
常に経済のバブル要因として伏在しています。
しかも、16兆円という減税規模は、米国のGDP(1500兆円)の1%強に過ぎません。
経済全体への大きな波及効果は期待できないでしょう。
金融危機の大きな渦の中に吸収され、埋もれてしまうかも知れません。
とてもサブプライム問題の解決する起爆剤にはならないでしょう。
低金利政策も減税も、損失を拡大して危機を深める金融機関に直接に力を与えるものではありません。
これらによって、不良債権が減るわけでも、損失によって毀損した資本(純資産)が補填できるわけではないからです。
バランスシート(貸借対照表)は改善されません。
低下した自己資本比率(自己資本÷全資産)は高まりません。
結局のところ、低金利や減税による救済策は、弥縫策(付け焼き刃、その場しのぎ)に過ぎないということです。
特に、減税に至っては、姑息なまやかしとも言えます。
ブッシュ大統領は、政治的配慮、戦略から、このような救済策を打ち出したのかも知れません。
イラクへの侵攻的な戦争による失敗から、自分自身や自身の属する共和党への風当たりが強くなっているからです。
今年は大統領選挙も議会選挙も控えています。共和党は惨敗しかねません。
少しでも国民に迎合し、国民の歓心を買おうとするのは、目先の利を追う凡庸な政治家ならば当然かも知れません。
では、効果的な救済策はあるでしょうか?
以下、私見を述べてみます。
効果的な方策は、2つあるように考えられます。
1つは不良債権の拡大防止、もう1つは危機的金融機関への資金投入です。
サブプライム問題発生の入口と出口の両方への手当て、処置です。
現在、サブプライムローンによる不良債権残高は23兆円ほどと言われています。
これを拡大しないことです。
そのためには、サブプライムローンの負債者(借入れた人)の返済能力を確保することです。
借入金利(=貸出金利)を低く抑えることがポイントでしょう。
プライムローンと同水準の金利をできるだけ長く保持することが望まれます。
その意味で、12月6日に発表された住宅ローンの金利凍結(5年間)は有効な方策と思われます。
もう一つの解決法は、危機的金融機関への直接の資金投入です。
損失によって毀損した資本(自己資本、純資産)部分への資金の補填です。
日本の場合には大きな効果がありました。
政府の公的資本の注入が中心でした。
日本では当初、世論の大きな反対がありました。
多くの国民が、公的資金の投入を税金の単なる無償供与(贈与)だと捉えていたのが最大の理由です。
しかし、資本注入は原則的に投資です。
多くの場合、回収が可能です。キャピタルゲイン(利益、収益)を得る場合もあります。
日本の場合の収支決算ついては、過去の記事でも触れました。(→参照)
各金融機関への直接投資は、市場全体への資金供給より、はるかに資金量は少なくてすみます。
対応は、早ければ早いほど早いほど効果は上がります。
しかし、米政府は、今のところ(1月末現在)積極的な姿勢を見せていません。
これに代わって、現在まで他国の政府系ファンドなどが出資を行ってきました。
これまでの出資額は、3兆円程度と見られています。(→参照)
現在、推定されている債務不履行(貸し倒れ、焦げ付き)の額は、13兆円程度とされています。
ファンドの支援だけでは、まだまだ不十分です。
これに関して、別の有力な救済策が浮上しています。
さらに、金融機関の損失の根を断とうというものです。
金融保証会社(モノライン)への直接支援です。
モノラインは、金融商品の保証を専門とする保険会社です。
証券や債券を発行する金融機関などから保証料を受け取って、債務不履行(貸し倒れ、焦げ付き)が起きた場合、証券や債券の保有者、購入者に元利を支払っています。
この保証が履行されなければ、金融機関が債務不履行による損害をそのまま引き受けることになります。
現在、保証額の残高は、200兆円余りだとされています。
このうち数%以上が保証の支払いのため毀損される可能性があると考えられます。
多くがサブプライム関連です。
現在、サブプライムローンなどの債務者の不履行増大により、経営危機に直面しているモノラインが急増しているとされています。
モノラインが破綻すれば、金融危機は一気に増幅します。
ニューヨーク州政府は、経営が急速に悪化しているモノライン各社を救済するため、金融界に資金拠出を要請しました。
もし、必要十分な資金量が確保されれば、救済に向けて大きな前進となるでしょう。
さらに、有望な打開策が急浮上しています。
民主党上院議員クリストファー・ドッド氏から提案されました。(1月22日)
住宅ローンの「買い取り機関」の創設です。
対策案の内容は、次のようなものです。
「返済が滞るなどして差し押さえの対象となるような住宅ローンを、借り手から市場価格でいったん買い取る。そのうえで、借り手に低利の固定ローンを再契約させて差し押さえを防ぐ。」
債権の回収額が、当初の購入額を下回った場合は、税金で補填することになります。
この方策は、借り手の保護とともに、サブプライムローンの焦げ付きに歯止めをかけます。
住宅の差し押さえや強制退去を大きく回避させます。
多くの低所得層が浮浪化、難民化するのを防ぎます。
もちろん、金融機関など貸し手の損失拡大も防ぎます。
サブプライムローン債権を組み込んだ証券の価格も回復するでしょう。
時価会計による評価損で悪化していた経営は一気に改善する可能性が高いということです。
この構想は、大恐慌下の1930年代に創設された「自家所有者融資公社(HOLC)」を模したといいます。
恐慌当時も、住宅の差し押さえ問題が深刻化しました。
公社が条件の悪い住宅ローンを買い取り、長期の低利融資を提供し直したことで、100万人が救済されたといわれます。
この救済策の先行きは定かでありませんが、魅力的な解決法であることは確かです。
迅速で、直接的で、国民の負担が少ないと思われるからです。
少ない資金量で、スピーディな効果があると言うことです。
いずれにせよ、次の2つが最も効果的な救済策の核になるでしょう。
私は、そう判断します。
1.過剰債務者に対する直接的で必要十分な債務軽減。
2.金融機関に対する直接的で必要十分な資金注入。
かつて、アメリカは、バブル崩壊後の金融危機に対する対応を次のようにと批判し、揶揄してきました。
「Too little. Too late.」(遅すぎだ。少なすぎだ。)
確かに、日本の場合、失われた十年になってしまいました。
後遺症は、今もなお完全に払拭されているわけではありません。
しかし今度は、アメリカ自身がそれに直面し、それを試されようとしています。
人間、誰しも自分のこととなると、冷静な判断が曇るものです。
性(サガ)というものでしょう。
強大国による混乱と不況の輸出だけは御免です。
危機の招来と全く関係ない人々が痛み、苦しむことになるからです。