▲金融危機とバランスシートの悪化
金融危機が浮上すると、次のような言葉がマスコミや経済記事の中に盛んに登場します。
バランスシートの悪化、 債務超過、 自己資本比率、 オフバランス、
これらは、どのようなことをいうのでしょう?
バランスシート(B/S、貸借対照表)の中では、どのように捉えられるのでしょう?
これについて、簡単に触れてみたいと思います。
まず、バランスシートの悪化です。
これは、多くの場合、資産が減少し、負債が増加する状況を意味します。
定義的には、「資産に対する負債比率の上昇」ということになります。
次のようなメカニズムで起こります。
まず、資産が下落します。
資産の下落は、次のようなものが大きな原因となります。
保有証券(株式、債券など)価格の下落、 不良債権の増大
※有価証券の下落は、時価会計による評価損として計上されます。
とりわけ、現在進行中のサブプライム問題に発する金融機関の危機はこれが最大の要因です。
これらの資産の減少によって、同じ金額の資本が減少します。
減価分は、資本に反映されるためです。
その結果、資産に対する負債の比率が上昇します。
これを、最も単純化したバランスシートで示してみましょう。
当初のバランスシートは次のようなものであったとします。(単位億円)
資産の部 負債の部
現金 10 借入(債務) 80
貸出(債権) 90 資本の部
資本金 10
剰余金 10
この状態から貸出の1割(10億円)が不良債権化し、回収不能(貸し倒れ、焦げ付き)となったとしましょう。
バランスシートは、次のようになります。
資産の部 負債の部
現金 10 借入(債務) 80
貸出(債権) 80 資本の部
資本金 10
剰余金 0
資産に対する負債の比率は、80%から約89%(80÷90)に上昇しています。
これがバランスシートの悪化の一つの形です。
これは同時に、自己資本比率の低下となっても現れます。
自己資本比率とは、資本(自己資本)÷総資産です。
上の例では、この場合、資本が10億円毀損しました。
そのため、自己資本比率は、20%から11%(10÷90)に大きく低下しています。
金融機関の場合、とりわけ自己資本比率の低下は経営危機の判断材料となります。
銀行の場合、次のように厳しい最低基準が設けられているからです。
国内業務に限る銀行の場合…4%
国際業務をする銀行の場合…8%(BIS(国際決済銀行)規制)
自己資本比率の低下は、会社の存続を脅かしかねません。
では、さらに資産の減少が大きかった場合はどうでしょう?
上の例で、資産の減少が3割(30億円)に至ったと仮定しましょう。
この場合、資産(70億円)<負債(80億円)となってしまいます。
純然たる債務超過です。
全資本で資産の減少を補っても、まだ10億円足りません。
そこで、通常はこのような事態をを防ぐため、対策が打たれます。
自己資本比率の上昇策、バランスシートの健全化策といってもいいでしょう。
このとき、資本(自己資本)を十分に増額(増資)できれば、問題ありません。
場合によっては、債務の資本金化なども検討されるでしょう。
デットエクイティスワップが好例です。(→参照1、参照2)
これらが実現できれば、債務超過を防げ、自己資本比率を高めることもできます。
しかし、それらができない場合もあります。
その時に採られる処法の中心がオフバランス化です。
オフバランス化は、次の2つの手法に分けることができます。
1.資産とその同額の負債をバランスシートから切り離す(取り外す)。
2.資産とその同額の資本をバランスシートから切り離す(取り外す)。
1のケースでは、資産と負債は減額しますが、資本は一定なので、自己資本比率は高まります。
また、ROA(総資産に対する利益率)なども高めることができます。
これらを行うための方法として、例えば次のような処理の仕方があります。
・預金を取り崩し、借入金(負債)を返済する。
・有価証券(株式、債券など)を売却し、借入金(負債)を返済する。
・固定資産を売却し、借入金(負債)を返済する。
一方、2のケースでは、資産の圧縮率<資本の圧縮率となるので、自己資本比率は低下します。
また、負債は一定なので、総資産に対する負債比率は高まります。
このケースに当たる代表的な会計手続きに、不良債権処理があります。
これについて、次回の記事で触れてみたいと思います。
なお、「取引要素の結合関係」については、こちらをご参照ください。→取引と勘定