▲オフバランスによる不良債権処理とは?
前回の記事に引き続き、オフバランスについて説明を加えます。
不良債権処理によるオフバランス化を中心とします。
不良債権処理には、間接償却と直接償却との2種があります。
このうち、間接償却は貸倒引当金を積む方法です。
これに対し、直接償却は、貸借対照表から不良債権を切り離し、損失計上したうえで消滅させる方法です。
直接償却には、次の3つの方法があります。(→直接償却)
法的整理(法律の適用)、 私的整理(債権放棄)、 債権の売却
このうち、法的整理は、民事再生法、会社更生法、破産法などの法律が適用されます。
※債権の売却は、直接償却に含めない見解もあります。
前回の記事で、不良債権処理によるオフバランスでは、自己資本比率は低下することに触れました。
貸出債権などの資産の減少によって、同じ金額の資本が減少するからです。
このことは、直接償却については、理解が容易だと思います。
しかし、間接償却、つまり貸倒引当の場合は、捉えにくい部分もあります。
そこで、以下、貸倒引当について、具体的な説明を試みます。
貸倒引当は、将来の貸倒損失に対する見込額を計上する会計処理の方法です。
貸倒引当金は、いわば預かり金のような性格を持つので、負債に属します。
しかし、企業会計では、資産の部に控除科目(マイナス)として計上します。
将来、資産(貸出債権)を減少させるためだと解釈することができます。
同時に、貸倒引当金は将来の損失に対する前払い費用としての意味も持ちます。
そこで、損益計算書にも計上します。
この費用科目は、「貸倒引当金繰入」となります。
交通費、消耗品費などと同じ仲間です。
これは、損益計算書の中の「販売費及び一般管理費」に加えます。
いま、5億円の貸倒を見積もったとしましょう。
仕訳は、次のようになります。
(借方)貸倒引当金繰入 5 (貸方)貸倒引当金 5
この会計処理は、期末の決算処理で行われます。
この点、貸倒引当金の計上は、減価償却(固定資産の費用化)と似ています。
ただ、減価償却の場合は、償却した固定資産の減額として現れるだけで、バランスシートに記載されることはありません。
このように貸倒引当金の計上は、資産の減少と費用の増加をもたらします。
これは、利益を減少させる結果になります。
利益の減少は、税金を減らす効果があります。
節税効果です。
しかし、他方、利益の減少は、貸借対照表では利益剰余金の減少をもたらします。
つまり、資本を圧縮します。
これは、経営の悪化を示すことになります。
これをバランスシートに例示してみましょう。
最も簡略化したモデルです。
まず、計上前のバランスシートは次のようなものであったとします。(単位億円)
資産の部 負債の部
現金 10 借入(債務) 80
貸出(債権) 90 資本の部
資本金 10
利益剰余金 10
期末の決算で、貸倒引当金を5億円計上したとしましょう。
バランスシートは、次のようになります。
資産の部 負債の部
現金 10 借入(債務) 80
貸出(債権) 90 資本の部
貸倒引当金 △5 資本金 10
利益剰余金 5
資本金の減額部分(5億円)が、費用として利益から外されました。
この場合、自己資本比率は、次のように低下します。
20%(20÷100) → 約16%(15÷95)
従って、貸倒引当は、利益が十分にあるときに、危機や不測の事態に対して備えておくという意味で有効な手段です。
ちなみに、同じ引当金でも、他の引当金は、通常、負債の部に計上されます。
退職給与引当金が代表的です。
この引当金を5億円計上した場合のバランスシートを例示しましょう。
次のようになります。
資産の部 負債の部
現金 10 借入(債務) 80
貸出(債権) 90 退職給与引当金 5
資本の部
資本金 10
利益剰余金 5
このときの仕訳は、次のようになります。
(借方)退職給与引当金繰入 5 (貸方)退職給与引当金 5
この退職給与引当金繰入は、貸倒引当金繰入と同様、決算時に費用として計上されます。
ついでに、現金のうち、4億円を「退職給与引当預金」の名目で(科目として)、振替計上したときのバランスシートを示しましょう。
次のようになります。
資産の部 負債の部
現金 6 借入(債務) 80
貸出(債権) 90 退職給与引当金 5
退職給与引当預金 4 資本の部
資本金 10
利益剰余金 5
では、実際に貸倒が発生したときのバランスシートはどうなるでしょう?
これについては、少し具体的な説明が必要です。
次回の記事に譲ります。