▲貸倒の発生とバランスシート
前回の記事に引き続き、貸倒引当金とバランスシートについての説明を深めます。
貸倒(回収不能、焦げ付き)が発生した場合です。
前回と同じバランスシート(B/S、貸借対照表)を利用します。
次のようになっていました。
資産の部 負債の部
現金 10 借入(債務) 80
貸出(債権) 90 資本の部
貸倒引当金 △5 資本金 10
利益剰余金 5
今期、貸倒が3億円発生したとします。
バランスシートは、次のようになります。
貸出債権と貸倒引当金は、貸し倒れした分だけ圧縮されます。
資産の部 負債の部
現金 10 借入(債務) 80
貸出(債権) 87 資本の部
貸倒引当金 △2 資本金 10
利益剰余金 5
この場合、自己資本比率は、約16%(15÷95)です。
貸倒発生前と同じです。悪化していません。
貸倒引当金が計上されていたためです。
では、貸倒が貸倒引当金以上に発生した場合はどうまるでしょう?
当期、貸倒が25億円発生したとします。
バランスシートは、次のようになります。
資産の部 負債の部
現金 10 借入(債務) 80
貸出(債権) 65 資本の部
貸倒引当金 0 資本金 △5
利益剰余金 0
貸倒引当金では間に合いません。貸出債権は大きく毀損します。
結果、債務超過となります。
会社は、倒産の危機に直面することになります。
このような場合、資本注入などによる増資が必要となります。
あるいは、債権放棄を受けるという打開策もあります。
これは、債権者に債務を免除してもらう方法です。
いわば、現代版の「徳政令」(借金の棒引き)です。
借入などの債務の減少により、負債の部が圧縮されます。
バブル崩壊の後始末で、銀行が危機に直面にした企業に対して、債務免除を繰り返したことは記憶に新しいでしょう。
ダイエーなどの小売業、大手不動産会社、ゼネコン(総合建設会社)などが代表的です。(→参照)
この債務免除をバランスシートで示してみましょう。
上のモデルで、借入債務のうち10億円の債権放棄を受けられた場合、バランスシートは次のようになります。
債務の免除分は、当期の利益となります。
自己資本比率は、約7%(5÷75)となり、大きく改善します。
資産の部 負債の部
現金 10 借入(債務) 70
貸出(債権) 65 資本の部
貸倒引当金 0 資本金 0
利益剰余金 5
貸倒引当に関しては、経営主体に十分な利益があるときは、損失の発生を見越して利益を留保しておくという意味では確かに効果的です。
節税対策にもなります。
税金は利益部分に課せられるからです。
ただ、通常、この引当金は、企業会計では全額が費用として認められるわけではありません。
発生しない損失を先取りして、過度な節税に利用される恐れもあるからです。
また、会計期間によって納税額に大きなばらつきが生じてしまいます。
そこで、この費用として認められなかった貸倒引当繰入の分は、課税されることになります。
ただ、この税金は将来、損失が発生すれば返戻されます。
課税分は、税金の前払いと見なすことができるからです。
一方、企業にとっても、過剰に損失を計上する(=利益を縮小する)ということは好ましいことであはありません。
財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)が劣化するからです。
経営の悪化を公に示してしまいます。
そこで、この前払い分の税金は、資産として計上し、繰り延べることが認められています。
これが、いわゆる「繰延税金資産」です。
日本の金融危機の際には、しばしばマスコミや経済記事の中に登場しました。
では、この繰延税金資産は、バランスシートの中ではどのように扱われるのでしょう?
これについては、次回の記事で説明を加えることにします。