経済政策とは・2

金融政策とはどのようなものか?


前回の記事に引き続き、金融政策について説明します。
金融政策は、金利や通貨供給量(マネーサプライ)を操作することによる経済政策です。
中央銀行である日銀(日本銀行)が、この政策を担います。
2つに大別して整理してみると、次のようになります。(→参照1参照2

A.目標による分類
1.金利政策
・民間金融機関同士による極めて短期の貸借(コール)の金利を誘導調整。
・対象となるのは、無担保コール・オーバーナイト(翌日物=翌営業日まで)の金利。
・公開市場操作(買いオペ、売りオペ)を中心的な手段とする。
※政策金利には本来、公定歩合も含まれるが、現在は補助的手段。
 アメリカでは、フェデラルファンドレート(FF金利)。
※ゼロ金利政策とは,無担保コールオーバーナイト金利を実質的に0%にすること。

2.量的政策(量的緩和政策)
・低金利政策、とりわけゼロ金利政策に効果が得られない場合に導入。
・金利がゼロになっても、市場に資金を大量に供給し、デフレの克服を図る。
・民間金融機関が日銀に持つ当座預金の残高を目標とする。
・日銀は民間金融機関の証券(国債や手形など)を売買して操作(オペレーション)。
※購入代金は、民間金融機関が日銀に持つ当座預金の口座に振り込まれる。
  民間金融機関は、そこから資金を引き出し、運用(融資や投資など)をする。 
※当座預金の利率は0%。

B.手段による分類
1.公開市場操作
・銀行から有価証券(国債や手形など)を買い入れ(買いオペ)、市場に資金を供給したり、
反対に有価証券を売却し(売りオペ)、資金を吸収したりすることにより金利を調整。
・市場に資金が多くなれば金利が下がり、少なくなれば金利は上がる。
※現在の金融政策の中心的手段。
※オペレーションの資金は、日銀の当座預金を利用して出し入れされる。
※金利が0%(金利政策が無効)になると、量的緩和が目的となる。

2.公定歩合の操作
・日銀が民間の金融機関に貸し出す際の金利(有担保)を操作。
※公定歩合は、コールレート(金融機関同士による短期間の貸借金利)の上限金利。
※現在の政策金利は、無担保コールレート翌日物が担っている。
 公定歩合は現在、政策金利としての意義はなく、基準金利の役割を果たす。
※現在、公定歩合の正式名称は「基準割引率および基準貸付利率」。

3.預金準備率操作(支払準備率操作、法定準備率操作)
・民間金融機関が日銀に預ける準備預金(当座預金)の割合(預金準備率)を操作。
※民間金融機関は、預金残高の一定割合を日銀に預入することを義務づけられている。
※日本銀行は、1991年以来、預金準備率の操作を凍結。

ちなみに、金融政策には、金利(コスト)の上下による直接的な効果(コスト効果)によるものと、間接的なアナウンスメント効果によって図られるものがあります。
後者は、日銀当局による政策変更の公表などです。

これは、金融政策に効果が得られない場合にも一定の意味を持ちます。
日銀の金融政策における意志や姿勢を示すからです。

とりわけ、金融政策が誘導目標を設定して行われる場合、アナウンスメントには、大きな意味と影響力があります。
政策金利が無担保コールレートになっている現在、この効果は中心的な役割を果たしています。

アナウンスメント効果は、迅速に作用します。
これは、公表直後の株価の過剰で鋭敏な反応を見れば、直ちに理解できると思います。
アナウンスメントは、企業の財務行動にも敏感に影響を与えます。
家計のローン(借入)や消費行動にも、大きく波及します。

なお、深刻なデフレ下、あるいは長期的なデフレ下においては、金融政策がほとんど無効になる場合があります。
金利を引き下げても、投資や消費などが伸びません。(利子に対し非弾力)
さらに、ゼロ金利政策を採っても、量的緩和で資金供給を増やしても、投資や消費は好転しません。
いわゆる「流動性の罠(liquidity trap)」です。
日本では、1990年代半ば過ぎから、現在まで約10年間、このような状態が続いています。(→参照

これを克服するには通常、財政政策がより大きな効果を持つとされています。
特に、減税や公共投資を中心とした政府支出の増大です。
ただ、この場合でも、日銀はアナウンスメント効果に期待を託し、金融緩和政策を採り続けます。
この政策の解除(中止)は非常に危険であるからです。
景気をさらに大きく悪化させる可能性があるからです。

これに関しては別の記事で説明を加えることにします。
とりわけ、「流動性の罠」に関する議論です。
こちらをご参照下さい。→「流動性の罠とは

では最後に、2つのことを整理して付記しておきます。
近年における中心的な金融政策の推移と、経済政策のまとめです。
次のようになります。

中心的金融政策の推移
                  誘導目標                 操作手段
   ~1995   : 市場金利                    … 公定歩合の操作
1995~1998: 短期金利                        \
1998~2001: 無担保コール翌日物の金利         |公開市場操作
2001~2006: 日銀当座預金残高(量的緩和政策) |
2006~現在 : 無担保コール翌日物の金利         /

経済政策のまとめ
1.財政政策
   /積極的財政政策    /歳出の調整(政府支出の増減)
  \消極的財政政策    \歳入の調整(課税の増減)
2.金融政策
    /金利政策…無担保コール翌日物の金利を誘導
    \量的政策…日銀にある民間金融機関の当座預金残高を増減
   /公開市場操作   …買いオペ、売りオペなどによる操作
   | 公定歩合の操作…民間金融機関への貸出金利を操作
   \預金準備率操作…民間金融機関が日銀に預け入れる預金の割合を操作

現在、サブプライム問題に発する金融危機が世界中に波及しています。
グローバルなリセッション(景気後退)が懸念されています。
日々の生活を脅かすこのような深刻な事態に対し、どのようなポリシーミックス(政策の組合せ)が出てくるか、注視する必要があります。