流動性の罠とは・1

流動性の罠とはどのようなものか?-その1


日本は、1990年代半ば過ぎから、現在に至るまで10年以上、流動性の罠の状態に陥っていたとされています。
流動性の罠(liquidity trap)とは、どのようなものでしょう?
どのようなことを言うのでしょう?(→参照

通常、金利が下がれば、お金は借りやすくなります。
人々はお金を借りて、設備投資をしたり、家や車のローンを組みます。
そこで、需要は高まります。経済は活性化し、景気は拡大します。

ところが、利子率が下がっても、投資や消費が増えない場合があります。
利子率に対して、膠着(固着)状態になります。
これを経済用語で、「非弾力性」といいます。
投資の場合、「投資の利子非弾力性」などといいます。

これは、金利が非常に低い場合、大多数の人が、「これ以上金利は下がらない、今後は、金利は上昇して証券価格は値下がりする」と予想するためです。
金利の上昇を警戒して、設備投資やローンを組むのを控えるというわけです。

さらに、金利が下がり、0%水準に張り付くことがあります。
こうなると、人々は現金をどれほど持っても、投資やローンなどに活用しなくなります。
つまり、金融政策当局(日銀)が、いかに資金供給を潤沢に行っても(金融緩和)、投資や消費がそれに反応せず、需要は低迷したままということです。

日銀の通貨供給(マネーサプライ)に対し、現金や預金だけが増える結果となります。
貨幣(現金・預金)に対する需要だけが底なし(無限大)となります。
この状態を「貨幣需要が無限に弾力的」といいます。
これが「流動性の罠」です。

1990年代後半は、「投資の利子非弾力性」が作用していたといえます。
この期間、短期金利は急落し、0.5%水準を保っていました。
2000年代前半は、「流動性の罠」が働いていたと考えることができます。
この時期、基準金利は0.1まで下がり、5年ほど膠着状態にありました。(→参照

1992年(平成4年)から2001年(平成13年)は平成不況といわれています。
その後の5年も合わせて、「失われた15年」といわれることもあります。
金利の下落と超低金利は、この時期と大きくオーバーラップしています。

前述しましたが、金利が0%水準では、人々は貨幣を現金や預金で保有しようとします。
これを「流動性選好」といいます。
人々が現金など流動性を選ぶのは、主に次のような理由からです。
 ・取引的動機…いつでも自由に売買(取引)に使える。まさに流動性の特性。
 ・予備的動機…いざという時のための安定した備えとなる。
 ・安全性動機…投機の場合のような減損リスク(危険)を生じることがない。

とりわけ、債券の場合、現在の金利が最低水準であることは、将来の「金利の上昇=債券価格の下落」の可能性を示しています。
どういうことか、具体例で説明しましょう。
最も単純な数値モデルです。

今、額面価格100万円、利率(=表面利率=クーポンレート)1%の利付国債とします。
この場合、毎年の利息は1万円です。
この債券は売買されますので、価格は変動します。
一方、利息は固定(確定)しています。
※ケインズは、この説明のためコンソル債という永久確定利付債券(元本の償還は無し)に例をとりました。

このとき、金利が2%に上昇したらどうなるでしょう?
この場合、1万円の利息を得るための元本(元金)は50万円となります。
これは、債券価格が50万円にならなければ、債券を購入するメリットはないということです。
わざわざ市場金利より低い利率の債券を購入するものなどいないでしょう。

そこで、債券価格は暴落します。
つまり、金利が2倍になったために、債券価格は半分に下落するわけです。

もちろん、逆も言えます。
債券価格が2分の1になれば、金利は2倍に高騰するということです。
利息は、確定しているためです。
かくして、金利が0%水準の場合、先々の「金利の上昇=債券価格の下落」を恐れて、債券を購入するものはいなくなります。

債券の購入(=債券投資)は、発行体(国や地方自治体、会社など)にお金を貸すことです。
代表的な投資(資金投下)です。
それが低迷するということは、投資全体が収縮するということを意味します。

このとき、いくら資金供給をしても、どこまでも保有する現金や預金が増えるだけとなります。
貨幣は死蔵されます。
つまり、金融政策は、効果を失います。

続きは次回の記事に。