▲繰延税金資産とは?
前回の記事に引き続き、繰延税金資産について触れることにします。
繰延税金資産は、決して理解が容易なものではありません。
そこで、少しかみ砕いて説明しましょう。次のようになります。
「貸倒引当金を計上しても、まだ本当に貸し倒れしたわけではない。
だから、全額を費用として認めるわけにはいかない。
引当金の半分だけは費用として認めるが、残りの半分は利益とみなす。
従って、その分に対する税金は納めなければならない。
その代わり、本当に貸し倒れが発生し、損失が確定した時は、その納めた税金は返戻される。
ただし、返却はその時の税金から控除する(差し引く)形で行うものとする。
従って、そのとき税金が発生していなければ(課税所得がなければ)、控除は受けられない。
なお、この適用を受けるためには、納めた税金を繰延税金資産として資産の部に計上する必要がある。」
貸倒引当金繰入を認められなかった分に対する税金を支払ったままであると、企業にとって当期純利益は減少します。
自己資本比率も低下することになります。
そこで、前払いした税金に当たる部分を資産として計上することが認められているわけです。
これをバランスシートで確認してみましょう
まず、繰延税金資産を計上する前のバランスシートは、次のようなものであったとします。
資産の部 負債の部
現金 0 借入(債務) 80
貸出(債権) 90 資本の部
貸倒引当金 △10 資本金 10
ここで、貸倒引当金10億円のうち、5億円が損金として認められなかった(その分が益金となる)とします。
税率を40%とします。
この場合、税金は2億円(5×0.4)増えてしまいます。
そこで、これと同額を繰延税金資産として資産に計上します。
これをバランスシートに示すと、次のようになります。
※もし、貸倒引当金の全額が費用として認められれば、節税額は4億円(10×0.4)です。
資産の部 負債の部
現金 10 借入(債務) 80
貸出(債権) 90 資本の部
貸倒引当金 △10 資本金 10
繰延税金資産 2 利益剰余金 2
前払い分の税金(繰延税金資産と同額)を損金に算入させないためには、法人税等調整額として損益計算書の法人税から差し引きます。
将来戻ってくることが予想される税金は、会計上、税金を支払わなかったように処理処理するためです。
このときの仕訳は、次のようになります。
(借方)繰延税金資産 2 (貸方)法人税等調整額 2
繰り返しますが、会計上では、貸倒引当金繰入は全額が費用となり、利益は減少します。
しかし、税法上では一部が損金と認められず、課税されます。
つまり、貸倒引当を大きくすれするほど、会社にとって、当期の利益は減少した上に、税金は増加します。
そのため、法人税などが当期純利益を上回ってしまう場合もあります。
さらに、自己資本比率も低下することになります。
税務上の加算額は、損金不算入項目(引当金の繰入超過額等)。
会計上の費用が税務上の損金よりも早く認識される。
税額算定の時に有税引当分を加算。
そのため、銀行などはしばしば不良債権に対する貸倒引当金を積むのをためらってきました。
しかし、そのような企業の意識、姿勢は、不良債権に対する処理を後手にしかねません。
これは、事態を悪化させ、金融危機を招き、拡大する大きな要因になります。
それを防ぐために、上のような会計の処理方法が適用されるようになりました。
いわゆる税効果会計といわれるものです。(→参照1、参照2)
2000年3月期の決算から導入されています。
なお、この貸倒引当金のうち費用として計上(繰入)が認められる限度額は、税法で細かく決められています。(→参照)
※企業会計の利益=収益-費用、 法人税法の所得=益金-損金
また、この会計処理方法は、強制して適用を求められる場合もあります。
次のような企業です。(→参照)
※下記以外の会社については、任意適用とされています。
・金融商品取引法の適用を受ける公開会社。
・資本金5億円以上(会社法上)の大会社。
・負債総額200億円以上の会社。
いずれにせよ、会計処理は、経営の動向と強く結び付いています。
以上述べてきたような会計処理方法が、サブプライム問題で再び表舞台に登場するかも知れません。
マスコミや経済記事の中に躍るようになるかも知れません。
今サブプライム関連の取引で巨額の損失を抱える金融機関は、バランスシートの悪化に喘ぎ、その健全化に悪戦苦闘しています。
会計の処理は、ますます重要になっています、。
バランスシートのウェイトはますます増しています。
そのパフォーマンスには注視が必要です。