流動性の罠とは・2

流動性の罠とはどのようなものか?-その2


前回の記事に続き、流動性の罠について説明を加えます。

流動性の罠は、デフレ下の現象です。
物価水準が持続的に下落し続けているときに発生します。
逆に、流動性の罠が発現しているときは、デフレが深刻化、長期化します。
つまり、この2つはお互いに原因となり、結果となって密接に関係しているということです。
両者は、強い相互作用を持っています。

流動性の罠が発現しているとき、人々は投資や消費を控えるようになります。
様々な需要は落ち込みます。
これは、物価水準を下げる要因・圧力として働きます。
つまり、デフレを一層深化させます。

一方、デフレ下では、同額のお金でも、その価値は上がります。
これは、借金をした場合、負担が重くなることを意味します。
金利で説明すると、次のようになります。

例えば、名目金利が1%であっても、物価が2%下落してしまえば、負担となる実質金利は3%になります。
いくら名目金利が低くても、デフレであれば、お金を借りて設備投資をしたり、ローンを組む人は激減します。
これが流動性の罠となって現れるわけです。

流動性の罠の状態の時、当面の金融政策が無効であると先に述べました。
金利政策や量的金融緩和に直接の実効性がないということです。
では、どうしたら、この罠から抜け出すことができるでしょう。
深刻なデフレ、ないし不況から脱却することができるでしょう。

その最大の解決策は、総需要(有効需要)を喚起することです。
総需要とは、 家計消費、設備投資、政府支出、純輸出などです。
内需と外需の和です。

この総需要が拡大に反転すれば、デフレ・不況から脱却できます。
では、どうしたら有効需要を創出、拡大することができるでしょう?

そのための解決策として、次のような処方が考えられます。
 ・財政政策…公共事業などの政府支出、減税。
 ・規制緩和や技術革新などによる投資の回復。
 ・インフレ目標のようなアナウンスメントによる金融政策。
 ・為替介入(自国通貨の切り下げ)による輸出の増大。
※需要拡大の契機として、外的要因による輸出や他国からの投資増大などもある。

この中でも、財政政策は、最も有効な手段であるとされています。
典型は、公共事業です。直接的な政府支出です。
減税も、デフレ下ではしばしば試みられます。
平成の不況期にも、いろいろの財政政策が行われました。

ただ、総需要に力がないのは、家計消費にも大きな原因があります。
家計消費は、総需要のうちの6割を占めているからです。(→参照
デフレ下では、この家計消費が大きく落ち込んでいます。

近年の家計消費の冷え込みの理由は明白です。
所得格差が拡大し、低所得者層が大きく増えているためです。
高所得者ほど消費性向(所得に対する消費の割合)は逓減(漸減)します。

そこで、消費支出総額が減退しているというわけです。
それが、総需要に深刻なマイナスを与えています。
ここに景気回復の大きな鍵があるといってよいでしょう。
消費性向の高い低所得者層の所得をいかに増やすということです。
私見では、ここにこそ、デフレを脱却し、流動性の罠を克服するための本丸があると思っています。

なお、ゼロ金利政策や量的緩和政策に効力がないからといって、それらを解除(中止)することは極めて危険です。
一層デフレや不況を深刻化させる恐れがあります。
また、流動性の罠の状態にあっても、ゼロ金利政策や量的緩和政策がまったく無意味であるということはありません。

それらには、アナウンスメント効果があります。
政策当局が最大限の対策を行っているということを示すことができます。
景気が回復するまで、ゼロ金利や量的緩和などの金融緩和政策を保持すると確約をすることは、人々に希望を持たせます。
人々は、いつかは景気が上向くという期待を持つことができます。
これを、時間軸政策と言います。

確かに、効果が現れるには通常大きなタイムラグがあります。
それは数年以上かも知れません。
しかし、経済では金融当局の姿勢は極めて重要な意味をもっています。
人々の楽観や悲観の心理は、経済の動向をしばしば大きく左右します。
事実、日本でも1990年代から今に至るまでゼロ金利や量的緩和を強く保持してきました。
それらに一定の効果はありました。

現在、少しずつ流動性の罠から脱却する曙光が見え始めています。
ただサブプライム問題に発する金融混乱の行方によっては、スタグフレーションになる懸念もないではありません。
つまり、景気は低迷しているのに、物価だけが上昇しているという現象です。

今後、どのようなメカニズムと政策選択で、本格的に流動性の罠を克服できるのか、興味深いところです。