安倍総理の退陣

安倍内閣の倒壊は、民主党にとって有利か?



安倍首相が、突然退陣しました。
多くの国民は、唖然としたでしょう。
まさに、青天の霹靂です。


野党陣営は、安倍内閣への激しい攻撃を続けてました。
不祥事が続いたことで、それは勢いを増していました。
国民世論も、強い追い風となってきました。


そして、ついに標的は崩れ落ちました。
まさに、大望が成就したわけです。
しかし、これは民主党を中心とする野党にとって、それほど大きなメリットが得られることなのでしょうか?
手放しで喜ぶべきことなのでしょうか?


国民は、相次ぐ不祥事(年金問題や閣僚などの会計スキャンダル)に対し、辟易し、不快感や反感を高めていたことは事実です。
しかし、いざ相手が惨めな倒れ方をしてみると、情が沸くことも確かです。
一般の国民というのは、案外に素朴、純朴な感情を持っているものです。
政策や政治的戦略、イデオロギーなどよりも、しばしばそれが優先します。


このような敗残者や弱者に対する感情を、古来日本では、「そく隠の情」などと言ってきました。
「武士の情け」などという言葉もそれに類します。
さらに、「判官びいき」などという積極的な感情や反応を表す言葉もあります。
日本人には、そのような国民性があるということです。


そうなると、与党、とりわけ自民党に対する悪感情や攻撃は和らぐ可能性があります。
安倍内閣が瓦解したことで、逆風が弱まるということです。順風に反転するかも知れません。
逆に、民主党はじめ野党にとっては、これは追い風が弱まることを意味します。
向かい風が強まるかも知れません。


直近の安倍内閣の支持率は、直近で20%台に低落していました。
しかし、仮に新しい首相による内閣の支持率が50%台に上昇したとするとどうでしょう?
間違いなく、与党にとっては、風は有利に吹き始めます。
解散総選挙(=衆議院選挙)があっても、現在より状況は明らかに好転するということです。


民主党を中心とする野党にとっては、安倍内閣を「生かさぬように、殺さぬように」して、解散総選挙に持っていくのが、最良の戦略だったでしょう。
与党に対する国民の反感、不支持を最大限に保つことができるからです。


ところが、野党は安倍内閣を追いつめすぎました。マスコミの論調も大きかったでしょう。
安倍内閣は、倒壊してしまいました。新しい内閣が誕生しようとしています。
しかも、新しい内閣が発足したときの支持率は概して高止まりです。
しばらくの間、相当大きな値を示すことは間違いないでしょう。


参議院選で、民主党は大勝し過ぎました。
多くの国民は、勝たせ過ぎたと思っているかも知れません。
さらに、両院とも野党が過半数を占めることを望んでいるかどうかは極めて疑問です。


この意味でも、総選挙では、民主党をはじめとする野党の闘いは厳しくなります。
とても参院選のようには展開しないでしょう。


従って、選挙を有利に展開させるためには、大きな戦略が必要となります。
それは国民の広い層に最も関心が、最も魅力的な政策をプレゼンテーションすることです。
核心は、年金問題と最低賃金だと私は考えます。


年金問題は、参院選の時の構想・大綱をもう一度はっきりと示すことが必要だと思います。
長期的なビジョンです。
年金財源を全て税方式にする、全ての低所得者が受給可能とする、などの骨子です。
最低賃金は、時給1000円を中期的なターム(たとえば5年)で実現する、などのアジェンダ(政治日程)を提示することが大切です。


バラマキ的な政策については、避けた方が良いでしょう。
子供手当て(1人月額2万6千円支給)、農家の戸別所得補償、公立高校の無償化、高速道路の無償化などです。


確かに、どれも半ば夢のような話ですが、多くの国民は半信半疑でいるはずです。
全部実現するとなると、巨額な財源が必要です。
国民は、そこに大きな不安を感じています。
これらの政策の羅列は、国民の民主党に対する不信感を高める方向に作用しかねません。


また、特措法なども、余り前面に押し出さない方がよいでしょう。
多くの国民にとって、生活と直結する問題ではないからです。
興味のある国民は限られています。
焦点が拡散するだけです。


従って、争点を年金問題と最低賃金に絞った方が、民意には大きくプラスに働きかけるでしょう。
限界までの最大多数の得票を期待できるということです。


仮に、現在一部でささやかれている小泉前首相が再登場しても、格差社会の是正、生活の安心を強く訴えれば、恐れるに足りないでしょう。
小泉政権下で所得の不平等は広がり、経済生活や老後の不安は増大したことは明らかだからです。

格差の拡大は、競争原理の導入、自由競争の激化、弱肉強食の是認にあるという理解が国民の間に広まっています。
多くの国民は、小泉首相の人間性には親しみや魅力を感じていても、政策には疑問や反発を感じているのも確かです。


次の選挙は、政権選択の重要な意味をもっています。
この総選挙に勝たなければ、民主党は政権を奪取することはできません。
総理大臣の任命も、内閣を組織することもできないからです。
目指す政治の実現は、手を離れたままです。


今度の総選挙が、民主党にとって追い風になる保証は全くありません。
風向きが反転するかも知れません。振り子の揺り戻しがあるかも知れません。
民主党は、よほど魅力的な政策を掲げ、効果的な戦略を立てない限り、国民の広く強い支持を集めるのは容易ではないと心得た方がよいでしょう。
兜の緒を引き締め直すべきです。


なお、安倍首相は、自分が総理になっても、自民党は参院選で大敗し、早期退陣に追い込まれるということを予測していた節があります。
短命内閣に終わるということです。
だから、総裁戦に出馬することを固辞していたわけです。
過去の記事で述べた通りです(→参照)。


実際、その通りになってしまいました。
固辞し切れず、このような結果になったことに、巨大な運命の力を感じているかも知れません。

同じように、参議院選の大敗と短命内閣を予測していたと思われる人がいます。
そして、次の総裁、総理を伺っていたと考えられる人物がいます。
福田康夫氏です。

だから、彼は前回、固辞し続けました。
もし、今度の総裁選に立候補するとしたら、彼の目論みは見事に的中したわけです。
いよいよ自分の出番が来たと奮い立っているかも知れません。
やはり政治家には、先を見る目と強運が必要だということでしょう。

安倍首相は、周囲の思惑に押し切られ、火中の栗を拾うことになってしまいました。
一種のスケープゴートの役割を担わされたのかも知れません。

辞任には、夫人の助言もあったかも知れません。
夫が矢尽き刀折れ、傷だらけになっていたからです。
追い込まれて、心身ともに疲労困憊の極地に追い込まれていた姿に耐えられなかった可能性があります。


議員の夫人たちの集まった席で、「生まれ変わっても、今のご主人と結婚したい人?」という問いかけに、真っ先に手を挙げたのは昭恵夫人だった、というエピソードもあります。
健康を心配したのかも知れません。実際、健康不安説も報道されました。
夫人にとって、首相の地位よりも、愛する夫の身体の方が大切であるということは十分にありえます。


安倍首相の父君も、道半ばで重い病に倒れました。
まだ、お若い身です。
健康だけは、害されることのないよう祈りたいと思います。


0 件のコメント: