◆現行の年金制度の問題点は?
年金問題が、大きな社会問題となっています。
政治に大きな揺さぶりを与えています。
国民の誰にも直結する生活上の切実な問題だからです。
今まで構築してきたシステムの歪みや、職員による無数の不祥事も次々と明らかになっています。
制度に対する信用は大きく失墜し、国民の不安と憤りは高まっています。
一方、与党・政府は、これに対して、次々と対策を講じ、手を打っていますが、いまだ解決の行方は不透明です。決定打を見出せないままでいます。
結局のところ、現在の改革は、批判をかわすための弥縫策の観が否めません。
姑息な間に合わせに終止する可能性さえあります。
約5000万件の宙に浮いた年金記録問題など、膨大な事務処理を求められています。
気の遠くなるような分量です。
コンピュータ記録と元の台帳との突合も行わなければなりません。
社保庁は、名寄せ作業や国民への通知などを本年度中に完了するとしていますが、本当に可能でしょうか?
「消えた年金」(記載漏れ)に対しては、領収書などの証拠書類と個別の照査、照合も行わなければなりません。
一方、与党・政府は、社会保険庁を分割、再編、民営化などによって、新しく出直そうとしています。しかし、形だけの変革になる恐れは大です。
根本的、本質的な制度改革がなされていないからです。
結局のところ、分割によって、官僚たちの天下り先を増やすだけの結果になりそうです。
そこで、現行の年金制度の主要な問題点、不足点をまとめ、改革への方向を探ることにします。
要点をかいつまんで、できるだけ簡明に述べたいと思います。
・制度が複雑で分かりにくい
現行の年金制度は、加入者の業態によって複雑に分化されています。
それは、年金に関する用語に象徴されています。例えば次のようなものです。
国民年金、基礎年金、厚生年金、共済年金、厚生年金基金 国民年金基金など
多くの国民は、これらの間でしばしば移動を繰り返します。
サラリーマンになったり、自営業者になったり、結婚して主婦になったりするためです。
転職、結婚、離婚が大きく関係します。
そのため、個人レベルに置いても、会社や社保庁、自治体レベルに置いても、記録や管理が極めて煩雑になります。
・不正が起きやすい
制度が複雑で、記録や管理の作業が繁雑になることから、不正や隠蔽などが起きやすくなります。
次々と暴かれる社保庁職員による犯罪的な行為(横領、詐欺など)の事実は、それを見事に証明しています。
また、グリーンピア(大規模年金保養施設)など福祉施設への流用は、累計で7兆円近くにも及ぶとされています。
これは、財源が保険料であることも大きな要因になっています。
・事務経費が肥大する。
これは、まさに保険料による徴収システムになっているためです。
保険料では、「誰が、いつ、どこで、何を(年金の種類)、どのように(納入方法)、いくら」納めたかという個別の細かな記録が必要となります。
加えて、制度も複雑です。
そのため、人件費やシステム構築費、そのランニングコストなどが膨大となります。
これは、年金の給付の減額か、保険料の増額をもたらします。
・生活保護世帯との整合性に欠ける
国民年金だけの受給者の受取額は、6万6千円程度です。
この金額では、「健康で文化的な最低限度の生活」を送ることはほぼ不可能です。
一方、生活保護費ならば、単身者で8~13万円(住宅扶助によって大きく異なる)ほど支給されます(自治体によって異なる)。
明らかに、生活保護費の方が多額になります。
これでは、保険料を納めないで、生活保護に頼ればいいという意識を助長させかねません。
・逆累進性が強い
低所得者ほど、負担割合が大きいということです。
納付する年間の保険料は、誰もが同等です。
年間所得100万円の人も1億円の人も、納める保険料は同額の約17万円です。
所得に占める負担率は、前者は17%、後者は0.17%となります。
極めて逆累進性が高いと言えます。
それでは、以上の多くの問題を解消し、望ましい年金制度を構築するにはどのような青写真を描けばよいのでしょう。
これについては、次の記事で触れることにします(できるだけ明日)。