◆望ましい年金制度のあり方は?
昨日は、大きな社会問題、政治問題となっている年金制度の問題点について、ポイントをまとめてみました。
今日は、その改革の行方、あるべき姿を探ってみたいと思います。
結論を先に述べると、骨子は次のようになります。
1.基礎年金のみを公的年金とする。
2.基礎年金の財源は租税化する。
3.最低年金を完全保証する。
以下、簡単ながら具体的な説明を加えます。
1.基礎年金のみを公的年金にする。公的年金制度は、多くの国民にとって実に分かりにくく複雑です。
種類も多岐多様に分かれています。
しかも、厚生年金を始め、多くが申請主義です。
加入も受給も、面倒な手続きによる申請によって、認められます。
これが、多くの国民や企業の重い負担となっています。
当然申請漏れや、未納問題も起き易くなります。
一方、管理・運営主体である社保庁もまた、制度の複雑さのため膨大な人件費やシステム費、設備費、管理費などのコストを要します。
そこで、全ての年金を一元化させます。
国民年金(基礎年金)部分だけを公的年金として残すことにします。
共済年金(公務員を対象)、厚生年金(企業の従業員を対象)など(2階建て部分以上)は全て廃止するということです。
もちろん、特権的な議員年金も廃止され、これに統合されます。
従来の二階建て部分以上は、すべて個人の任意加入、自由契約に任されます。
公的年金以外は、個人が積み立てなどをして準備することになります。
この部分は、主に民間の保険会社や金融機関、あるいは組合などが担えばいいでしょう。
これによって、政府は公的年金(国民基礎年金)だけに責任を持てばよいということになります。
公的年金は社会保障化し、それ以外の個人年金は保険化するということです。
行政・社保庁にとっても、企業などにとっても、複雑な年金システムによって生じていた膨大なコストは、大幅に圧縮されるでしょう。
さらに、天下り先もほとんどなくなります。
単純化、一元化することによって、多くの関連団体、特殊法人が消え去るはずです。
この点でも、資金のずさんな使われ方は大きく抑止できます。
国民から集めたお金の無駄遣いが激減することは確実です。
2.基礎年金の財源は租税化する。現在、年金の財源は、保険料として徴収されています。
年金が、国家による社会保障ではなく、加入者同士の社会保険のためです。
この加入手続き、保険料徴収、記録管理、給付に至る一連の業務を社保庁が担っています。
現在、激増している保険料の滞納者、未納者は、財源が保険料であることによって生じています。
租税(所得税や消費税)を財源にすることによって、滞納者、未納者の問題はほぼ完全になくなります。
無所得者、低所得者に対する無理な徴収を行う必要がなくなるからです。
特に消費税の場合は、支払い拒否者の問題も全く生じなくなります。
また、国民の年金に対する信用を大きく失墜させた社保庁の職員による流用、不適切な処理、不正などの不祥事、違法行為もほとんど生じなくなります。
税務署では、これらのことが極めて起きにくい体質と構造になっているからです。
実際、税金の徴収、記録などに関する職員の脱法行為などはほどんど耳目にしません。
年金を税源化することによって、社保庁は、加入手続き、保険料徴収、記録管理、給付のうち、給付と給付に関する記録管理だけに限定されます。
今まで、個人にも社保庁にも大きな負担となってきた、転居、転職、結婚、死亡などによる細かな情報の記録や管理はほとんど不要になります。
事務総量も事務コストも、大きく軽減されるでしょう。
無駄がなくなれば、その分、給付サービスに回せる資金は増幅します。
メリットは小さくありません。
3.最低年金を完全保障する。現在、年金は社会保険のため、保険料を納めた人しか受給できません。
病気、失職など、何らかの理由で納められなかった人は、この制度から落ちこぼれてしまうわけです。
本当に必要な人には手が差し伸べられない可能性があります。
自己責任といえばそれまでですが、あまりにも冷たい哲学だといってよいでしょう。
また、国民年金(老齢基礎年金)は、一律支給のため、年間の受給金額は同一です。
つまり、年間所得の全くない人も1億円の人も、同等の約79万円を受け取るということです。
79万円の価値は全く異なります。
さらに、生活保護との整合性の問題もあります。
基礎年金の額は、生活保護費より少額です。
先の記事でも述べましたが、基礎年金は月額約6万6千円、生活保護費は8~13万円ほどです。
金額的には生活保護費の方が有利です。
保険料を納めなければなおさらです。
保険料を納めないで、生活保護を求めるという方策を企てる人も出てくるでしょう。
このような問題を解消するには、年金を社会保障として給付するのが最適です。
無所得者や低所得者には、全員支給するということです。
たとえば、年所得200万円以下の人には全額、それ以上の人には減額支給するというのがよいでしょう。
そして、たとえば年所得400万円以上の人(単身者の場合)には支給しないということです。
これは資産との絡みもあります。
所得が無くても、莫大な資産を持っている人もいるからです。
そのような富裕層には、受給を遠慮してもらうべきでしょう。
そのためには、資産把握をする必要があります。
国民の総背番号制のようなものの導入が必須です。
高所得者の受給を省くということは、財源の確保を容易にします。
財政負担を軽減します。資金を肥大化させないで済みます。
富裕層ほど限界効用(同じ金額に対する満足度の増加率)は漸減します。
最大多数の最大幸福という視点からは、所得や資産による受給制限はやむを得ないでしょう。
満額の年金額は、年100万円程度が適当でしょう。
憲法で保障する「健康で文化的な最低限度の生活」(25条)はかろうじて確保される金額です。
生活保護とも整合します。
高齢者の生活保護は、制度としてなくすことができます。
老後に最低生活費が確実に保証されることは、国民の間に大きな安心感をもたらすでしょう。
病気になったり、失業したりするリスクはほとんど誰にもあります。
貧困の危険から完全に免れている人はいないでしょう。
そのようなとき、たとえば65歳からは最低生活が確保されているということほど心強いことはありません。
多くの人が、老後に希望を見出すでしょう。
これは、現役時代の消費性向(所得に占める消費の割合)を高めることも期待できます。
老後のために、過度の貯蓄をする必要がないからです。
結果、個人消費が拡大します。経済成長に大きく寄与するでしょう。
民需のうち個人消費は、GDP(国内総生産)の6割近くを占めるからです。
現在、経済成長(特に名目成長率)がテイクオフ(離陸上昇)できないのは、将来不安が消費性向を抑えていることが大きな要因となっています。
以上の改革私案は、民主党のマニフェストで示された改革案にかなり近いものです。(→参照)
以上のような改革を実現して行くには、民主党が政権をとることが前提となるともいえます。
与党は、上記のような改革への提言は全く行っていないからです。
少なくとも年金に関する限り、民主党への期待は高まります。
なお、この実現、とりわけ財源の租税化(全額税法式への移行)は数年かけて行うのがよいでしょう。
現在の基礎年金の税金の補填部分は3分の1です。
この国庫負担割合は、2009年度までに2分の1に引き上げられる予定です。
これを踏まえて、たとえば、その5年後に3分の2に増幅させ、さらにその5年後に全額とするなどの道筋を定め、実現を図るのがよいでしょう。
もちろん、それまで個人が保険料として納入した資金は有効です。
この部分は、個人が積み立てた年金として扱えばよいでしょう。
全額を返還・給付されなければなりません。
この場合、支給は一時金の形でも、年金の形でも選択可能とするのが好ましいでしょう。
根本的な改革を先延ばしにするほど、無駄も不安も引き延ばしにされます。
一刻も早い大改革が待たれます。