蔓延する虐待親

親を美化するのは危険


「子供を思わない親はいない」、「愛情のない親はいない」、「親はみんな子供のことを心配している」などとよく言われます。
本当でしょうか?
こういうステレオタイプ(ステロタイプ、紋切り型)のものの見方は非常に危険です。
理解や判断を誤るからです。

次の新聞記事をお読み下さい。(一部略)
同じ事件ですが、二度に渡って報じられています。
非常にショッキングなものです。

<生後4カ月の次男に繰り返し暴行したとして、奈良署は10日、奈良市月ケ瀬尾山の無職松本一也容疑者(29)と妻の琴美容疑者(21)を殺人未遂の疑いで逮捕した。
次男は意識不明の重体。両足の骨や肋骨(ろっこつ)が折れ、胸部と腹部には赤いペンで「ブタ」「死ね」の落書きがあった。双子の長男も体にあざがあり、同署は虐待が常態化していた可能性があるとみている。
調べによると、両容疑者は、昨年12月ごろから今月9日午前までの間、自宅などで次男の顔を平手で殴ったり、首や腹を強くつねったりするなどの暴行を繰り返し、意識不明の重体に陥らせた疑い。
調べに対し、一也容疑者は「イライラした時や泣きやまない時に殴った」と供述。琴美容疑者も「数回平手で殴ったことがある」と認めているという。次男に母乳を与える際、ぐずって飲まなかったことに腹を立て「ブタ」「死ね」と書いたという。長男の脇腹やおしりなどにも暴行を受けたようなあざが十数カ所あった。>08年3月11日付

<父親の松本一也容疑者が「バンジー」と称し、次男の足を持ち上げて、繰り返し床に落としていたことが14日、奈良署の調べでわかった。バンジージャンプのように頭から床に向けて落下させることから、一也容疑者と母親の琴美容疑者(21)はこの虐待を「バンジー」と呼んでいた。
2人は「生まれてきてほしくなかった」などと供述しているという。
次男は、今月9日に病院に搬送された際、両足付け根の大腿(だいたい)骨が骨折していたほか、肋骨(ろっこつ)が計11本折れていた。「バンジー」が原因とみられる。次男は依然意識不明の重体。>08年3月14日付

以上が、記事の内容です。
これが親のやることでしょうか?否、人間のやることでしょうか?
これらの仕打ちが愛情によるものであるはずはありません。

もし、生後4ヶ月ほどの乳幼児に対し、両足の骨や肋骨が折を折るほどの繰り返し暴行すること、胸部と腹部に赤いペンで「ブタ」、「死ね」と落書きすること、「バンジー」と称し、乳幼児の足を持ち上げて、繰り返し頭から床に落とすこと、これらが愛情に基づく行為だというのであれば、愛情の定義を根底から逆転させなければなりません。

このような親は、全国、否、世界至る所に混在している可能性があります。
10人いれば問題のある親は、たいてい1人はいます。
多少問題のある親も2人ほどいます。
逆に、非常に素晴らしい親も1人いて、かなり素晴らしい親も2人ほどいます。
そして残りの4人前後は可不可の相半ばする普通の親です。
私はこれを「1・2・4・2・1の法則」として、親や、人間を分析するときの手掛かりとしています。
この法則は、恐らく、どんな組織、集団、共同体でも当てはまります。

確かに、これほどの酷い親は、100分の1以下かも知れません。
しかし、仮に千分の1としても、全国では数万人もいることになります。
親の数は数千万人に上るからです。
このような事件は、ほんの氷山の一角に過ぎないということです。

それにしても、この子どもは将来どうなるでしょう?
どういう少年、青年、大人、そして親になるでしょう?
まともな大人になるでしょうか?心身共に健全な人間になれるでしょうか?

このような親の暴力を受けた子供たちは、将来、反社会的な人間や犯罪者なる可能性さえ強く疑われます。
彼ら自身が不幸であると共に、多くの人に苦しみ、悲しみ、悩み、痛み、傷害、被害を与える人間になるということです。
彼が実の親から受けてきた酷い仕打ちを考えると、残念ながら、その可能性が否定できません。
彼の心の奥底に怒り、憎しみ、痛みが鬱積し、充満しているからです。

暴力団関係者は、20万人近くにも上ります。
刑法犯の検挙者数は、毎年百万人もいます。
これらの数字は、親の暴力がいかに社会の至る所に蔓延しているかの1つの証左となるでしょう。

親の暴力は、世代間(親子間)連鎖の最も強いものの1つです。
この克服には、もっともっと多くのエネルギーが注がれてよいでしょう。
父性・母性を一括りに美化することは危険です。