▲流動性選好理論とは?
流動性選好とは、どのようなことをいうのでしょう?
それは、債券の値下がり(利子率の上昇)が予想されるとき、人々は資産を投資(債券の購入)に回すのではなく、現金(流動性)のまま保有することを選ぶというものです。
債券が値下がり(利子率が上昇)すれば、投資(債券の購入)は損失を生ずるからです。
この流動性選好について、具体例を挙げてみましょう。
表面利率(クーポンレート)3%、額面100万円の債券を想定します。
毎年の利子は3万円です。
※クーポンとは、切り取って使用する券のこと。債券の利札や回数券など。
市場利子率が5%ならば、この債券の適正な市場価格は60万円(3÷0.5)となります。
購入した債券から得られる実質的な利子の比率が、市場利子率と均衡するように、債券の価格が上下変動するためです。
では、60万円のこの債券を購入した場合、1年後に元利合計が60万円であるための市場利子率はどうなるでしょう?
3÷(60-3) より、約5.26%となります。
これを図示すると、次のようになります。
現在価格 1年後の元利合計
市場金利(利子率) 5%→5.26% 60 57+3
現 金 0% 60 60
1年後の債券価格が57万円以上ならば、現金保有より60万円の債券購入の方が有利となります。
このとき(債券価格が57万円、利子3万円)の市場金利は、約5.26%ということです。
つまり、1年後の市場金利が5.26%以上になる(債券価格が57万円以下になる)と予想されるならば、人々は債券購入より現金保有を選択するでしょう。
ただ、高金利の時は、さらに金利が上昇する可能性は低くなります。
通常は金利が低下します。
その場合、人々は現金保有より、投資(債券購入)にお金を回すことになります。
その方が、お金を有効に活かせるからです。
では、低金利の時はどうでしょう。
同じ債券(表面利率3%、額面100万円)を想定します。
市場利子率が1%ならば、この債券の適正な市場価格は300万円(3÷0.1)となります。
300万円のこの債券を購入した場合、1年後に元利合計が300万円以上であるための市場利子率はどうなるでしょう?
3÷(300-3)より、約1.01%となります。
これを図示すると、次のようになります。
現在価格 1年後の元利合計
市場金利(利子率) 1%→1.01% 300 297+3
現 金 0% 300 300
1年後の債券価格が297万円以上ならば、現金保有より300万円の債券購入の方が有利となります。
このとき(債券価格が297万円、利子3万円)の金利は1.01%です。
つまり、1年後の金利が1.01%以下であると予想するならば、人々は現金保有より債券購入を選択するでしょう。
ところが、現在1%の低金利状態で、1年後に市場金利が1.01以下に留まる可能性は低いといえます。
むしろ金利が1.01%以上に上昇(債券価格が297万円以下に下落)する可能性の方が大きいと予想されます。
その場合、人々は債券投資を控え、お金を現金のまま保有することを選ぶようになります。
これが深化すると、流動性の罠という状態に至ります。
中央銀行(日銀)が超低金利政策をとり、市場に資金を供給しても、それが投資に回らない状況です。
人々が、金利の上昇(債券価格の下落)を恐れるためです。
過去の記事でも触れましたが、人々が現金など流動性を選ぶのは、主に次のような理由からです。
・取引的動機…いつでも自由に売買(取引)に使える。まさに流動性の特性。
・予備的動機…いざという時のための安定した備えとなる。
・安全性動機…投機の場合のような減損リスク(危険)を生じることがない。
金利の上昇(債券価格の下落)が予想されるときは、これらの動機が大きな意味を帯びてくるということです。
こうして、人々の投資(債券購入)か、現金(流動性)保有かの選択(選好)が決定されます。
ちなみに、国債の表面利率は、その国債を発行(入札)する時点の市場における実勢価格に応じて決められます。
通常、表面利率は、その国債の予想される流通利回りに近い値となります。
その国債の発行価格は、額面に近似します。
新しく発行される国債を購入する場合、その最終利回りは、表面利率と大きく異ならないことが一般的です。
新発10年物国債の流通利回りが長期金利の代表的指標となるのはそのためです。