ガソリン暫定税率の廃止

暫定税率の廃止は良いことばかりではない!


ガソリンなどの暫定税率の延長問題で、与野党の白熱した議論が続いています。
日々の国民生活に直結する問題だけに、多くの国民の注目も集めています。

この暫定税率の課せられている税金は、次の3種(4税)です。(→参照
・ガソリン税(揮発油税+地方道路税)…計約25円/1リットル
・軽油引取税…約17円/1リットル
・自動車取得税…購入価格の約2%。
この暫定税率は、3月末に期限が切れることになっています。

現在のところ、国民の支持は圧倒的に暫定税率の廃止に傾いています。
多くの世論調査では、税率維持を指示する人の3倍以上を示しています。(→参照
ANNの世論調査では、延長を支持しないが74%、支持するが17%で、その差は4倍以上になっていました。

確かに、一人一人の国民にとってガソリン、灯油などは安い方が良いに決まっています。
しかし本当に、暫定税率引き下げは両手を挙げて歓迎すべきことなのでしょうか?
本当に国民のためのベストの選択になるのでしょうか?
懸念もあります。疑問もあります。
将来に至り長い影響があるからです。

そこで、案じられるいくつかの問題について触れてみることにします。
主なものを以下に並べてみました。3つあります。

1.実際の値段は、廃止税率分ほど下がらない。
ガソリン、灯油などの値段は、税金引き下げ分だけそのまま下がるでしょうか?
まず、そういうことは期待できないでしょう。
メリットは、流通の途中で少しずつ蒸発する恐れがあります。
揮発性の石油のようにです。

今まで石油関連の産業、石油の依存度が高い業界は、コストアップで苦しんできました。
最大の原因は、上昇を重ねる原油高です。
ここ数ヶ月の高騰は異常でした。

このような切迫した状況下で浮上した暫定税率の廃止は、関連企業、業界にとって、まさに救いの神でした。
コストアップ分を価格に転嫁しても、売上にマイナスの影響のない可能性があるからです。
暫定税率の引き下げ分が大きいので、多少の嵩上げは受け入れてもらえると算段できます。

そのため、暫定税率分が1リットル25円であったとしても、例えば実際の値下げ分は15円程度に留まるかもしれません。
1リットル150円のガソリン価格が125円ではなく、135円にしかならないということです。

このような状況になると、いつも企業や業界はそれをチャンスとして巧みに利用してきました。
価格の押し上げを行い、利益を滑り込ませてきました。
いわゆる便乗値上げです。
それが今回のケースでも繰り返されるということです。
その恐れは強いでしょう。

結果的には、恐らく企業と家計との利益の食い合いになります。
よく言えば、痛み分けです。
国民にとって期待していたほどのメリットはないということです。

2.一般財源へしわ寄せされる。
暫定税率分に相当する税収は巨額です。
暫定税率の延長に必要な関連法案が成立しないと、1年間で約2.6兆円(国1.7兆円、地方0.9兆円)の歳入の減収となるとされています。
これは、年間消費税の約1%分に相当します。

この税収が削減されれば、そのうちのかなりの分が一般財源にしわ寄せが行くでしょう。
道路関連の公共工事の削減が必要だからといって、全てを廃止するわけには行きません。
何割かは必要だし、進めなければなりません。

そうなると、他の歳出が大きく圧縮されるか、新規国債の発行となります。
つまり、行政サービスの削減か、国の借金の増加です。
恐らくその併用となる公算が大です。
国の借金(長期債務残高)は800兆円に迫ろうとしています。(→参照

行政サービスが低下すれば、国民の生活は劣化します。
教育、福祉、医療、年金、その他公共サービスが後退するということです。

しかも、税金というのは引き下げるのは極めて容易でも、引き上げるのは極めて困難です。
国民各層、各界の強い抵抗を覚悟しなければなりません。

確かに、税金は安い方がいいに決まっています。
しかし、ただ安ければいいというものでもありません。
個人にとっての善が、全体にとっての悪に転化するということもありえるのです。
いわゆる合成の誤謬です。

とりわけ、行政サースや福祉、社会保障を必要とする人々にとっては、しわ寄せがより大きくなるでしょう。
歳出のカットは、多くの一般国民にとっては不利と言うことです。
中でも、低所得者、高齢者、社会的な弱者などにとっては、厳しさが増幅します。

3.引き下げた分だけ、使用量が増大する。では、ガソリンなどの値段が下がった分だけ、家計の負担は軽減するでしょうか?
これは、使用量が不変であるという前提でのみ成立することです。

ガソリン1リットル当たり1割値下げがされたとしても、利用距離が1割増えればどうでしょう?
使用量が1割増えるということになります。
そうなれば、結局、家計負担は差し引きゼロです。

その可能性は大いにあります。
価格が下がれば、どうしても節約意識が薄れます。緊張が弛みます。
通勤に使う度合も、行楽、ドライブ旅行の回数も増えるでしょう。
少しばかりの引き下げメリットは吹き飛ばしてしまいます。

そればかりではありません。
節約努力の後退は、エネルギー資源の無駄遣いにも繋がります。
そして、それは、環境的にもマイナスの影響を与えます。
有害物質の排出です。
ますます、大気や自然は汚染され、生活環境は悪化します。
地球温暖化の加速要因にもなります。

日本のガソリン税の5割という負担率は、欧州諸国に比べれば、決して高いわけではありません。
京都議定書を批准していない米国は約2割ですが、欧州諸国の負担率は6~7割です。
欧州諸国は、過去20年間、ガソリン税率を段階的に引き上げてきました。
財政規律と環境問題を重視するためです。
これを考えると、日本の負担が税率を低くすることは、時代の要求に逆行するとも言えます。

確かに、そのまま道路財源として残せば、無駄な公共事業に使われる可能性は大いに残ります。
経済効果の低い道路建設の続行です。利権の温床ともなります。

事実、今後10年間で積み上がる特定財源30数兆円を道路建設・整備に補填しようとしています。
国交省は、10年間の道路関連の総事業費を約65兆円と策定しています。
その半額ほどを、道路特定財源で埋め合わせるということです。
特定財源はそのまま残すことには警戒が必要です。

財政の逼迫している折です。
年金、医療、介護の財源はますます肥大します。
国の借金もいまだに超高水準を保っています。
一向に軽減する徴候にありません。

とりわけ、年金問題は深刻です。
実質的に保険料方式は破綻しています。
それを税方式に移行させ、その財源に特定財源を補填すれば、多くの国民にとって福音になるでしょう。
そうすれば、消費税のアップも最小限に抑えられます。

以上を勘案すると、暫定税率はできるだけそのまま残しながら、税収分は、一般財源化、または福祉財源化するのが、ベストだと言えます。
多くの国民にとって、また将来の人々にとっても、利益をマックスにできる最良の選択となるということです。

暫定税率は、3月末で自動的に期限切れとなります。
しかし、4月中旬に、衆院で与党が3分の2以上の賛成により再可決すれば、1ヶ月近くで復活します。
そうなれば、特定財源は現状のまま温存されることになります。

民主党は、暫定税率を廃止すると声高に叫んでいます。
しかし、党内には、一旦廃止した後、再び恒久的な税として復活させる考え方の議員も多いようです。
「暫定」という言葉だけが問題のようです。

もし復活させるとすると、どのような変更を加えるのか大いに気になるところです。
その時、民主党の本意と、目指す方向が明瞭に描き出されるでしょう。

繰り返しますが、暫定税率は、ただなくなればよい、税金は下がればよいと言うだけではありません。
目先の利だけで安易に廃止を支持するのは、リスキーであると言えるでしょう。
多面的な視点から、長期的視野で判断を加えることが緊急に求められています。