▲インフレの種類と迫り来る悪性インフレ
原油の値段が高騰しています。
小麦、トウモロコシ、大豆などの価格も、強い上昇傾向を示しています。
これらは全体の物価に大きな上昇圧力となって作用するでしょう。
景気は、後退気味です。
悪性インフレが亢進する懸念もあります。
所得(給料など)が上がらないのに、物価だけ上がるということです。
多くの人々の生活はますます厳しく、苦しくなります。
そこで今回は、このインフレ(inflation)について触れることにします。
インフレとは、物価が持続的に上昇していく現象です。
通貨の価値は下がります。
通常、モノの供給量をそれに対する需要量が上回るときに生じます。
多くの場合、信用(貸出)の拡大、生産の増大、失業率の低下などが見られます。
では、インフレはどのようなことを原因として発生するのでしょう?
実際には、いろいろな要因があります。
様々な要因が複雑に、重層的に絡んでいます。
ただ、それらには中心となる特性があります。
それらを基準にインフレを類別してみましょう。
類別は、物事の本質を捉える場合にしばしば有効です。
まず、インフレには、スピードや度合いによって次のような種類があります。
・クリーピング・インフレ(creeping inflation)、マイルドインフレ(mild inflation)
物価が下方硬直的(下がりにくい)。2~3%の上昇が続く。忍び寄るインフレ。
・ギャロップ・インフレ(gallop inflation)
年率数%~数十%の物価高騰。駆け足インフレ。
・ハイパー・インフレ(hyper inflation)
1年以内に物価が数倍以上にもなる極度のインフレ。超インフレーション。
※第一次大戦後のドイツ(1923年)は、1年間で物価が何億倍にもなりました。
日本は、第二次大戦直後の4年間で物価は約60倍になっています。
※戦後のハイパーインフレは、次の2つが主因となります。
戦争の荒廃による物資の不足。戦費調達のための大量の国債発行。
(国は、国債(借金)を償還(返済)するため、大量の紙幣を発行)
次に、インフレは発生の要因によって次のように大別されます。
・実物的要因によるインフレ
・貨幣的要因によるインフレ
実物的要因によるインフレは、主因が需要側にあるか供給側にあるかによって、次のように二分されます。
・需要インフレ…ディマンド・プル・インフレとも呼ばれる。
供給を大きく超える需要があることにより物価が上昇する。
・供給インフレ…多くの場合、コスト・プッシュ・インフレと呼ばれる。
賃金・原材料費などの高騰によって発生する。
※供給インフレは、多くの場合、スタグフレーション(不況下での物価上昇)の状態になります。
さらに、実物的要因によるインフレは、主因が国内にあるか国外にあるかによって、次のように大別されます。
・国内インフレ(ホームメード・インフレ)…国内に発生要因のあるインフレ。
・対外インフレ…外国との関係(とりわけ貿易など)に発生要因のあるインフレ。
このうち、貿易を要因としたインフレは次の2つに大別されます。
・輸出インフレ…輸出の増大により、国内向けの供給量が減って発生。
・輸入インフレ…輸入量が減ったり、輸入品の価格が上昇することにより発生。
この他、次のようなインフレもあります。
・構造インフレ(生産性格差インフレ)…生産性の低い産業の物価が高くなり、それが全体に影響を与え得て発生するインフレ。
一方、貨幣的な要因によるインフレには、次のようなものがあります。
・財政インフレ…政府の発行した国債などを中央銀行が引き受けることにより、過剰に貨幣が供給(過剰流動性)されて発生する。
・信用インフレ…銀行が過度に貸付を行うこと(信用創造)により、貨幣の流通量が増えて発生する。
以上をまとめると次のようになります。
・上昇速度による分類
クリーピングインフレ(マイルドインフレ)、ギャロップインフレ、ハイパーインフレ
・発生要因による分類
実物的要因によるインフレ
/需要インフレ /国内インフレ
\供給インフレ \対外インフレ/輸出インフレ
構造インフレ \輸入インフレ
貨幣的要因によるインフレ
財政インフレ、信用インフレ
なお、インフレの逆の現象がデフレーションです。
物価が下落し続けます。通貨の価値は上昇します。
信用(貸出)の収縮、生産の縮小、失業の増加などが生じます。
バブル崩壊後の日本がデフレの状況にあたります。
恐慌は、デフレの激化、深刻化した1つの結果です。
さて、私は、当記事のタイトルの中で、「迫り来る悪性インフレ」と記しました。
「悪性インフレ」とは何でしょう?
それは、経済的な悪影響を及ぼし、人々の生活を苦境に陥れるインフレです。
その1つがハイパーインフレです。
異常で破壊的な物価高騰です。
ハイパーインフレは、経済を大きく混乱させ、人々に深刻な打撃を与えます。
しかし、今回、日本が直面しているのは、急激な物価暴騰によってもたらされる悪性インフレではありません。
それは、輸入インフレがもたらすコストプッシュインフレ(供給インフレ)です。
輸入インフレの原因は、輸入資源の高騰です。
原油、小麦、トウモロコシ、大豆などです。
冒頭に述べました。
人々の所得(給料など)が増えていないのに、物価だけが上がり続けることになります。
景気は良くないのに、物価は上がり続けるということです。
このように不況下に物価が上昇を続ける現象をスタグフレーション(stagflation)と言います。
これは、今までとは逆の現象です。
日本はここ5年ほど、景気拡大を続けてきました。
緩やかですが、戦後最長を記録しました。
それなのに、物価はほとんど上昇しませんでした。
マイナスを示すことも少なくありませんでした。
いわば「逆スタグフレーション」というべき状況です。
経済的には極めて珍しい現象でした。
しかし、この逆スタグフレーションは、いまや終結しようとしています。
スタグフレーションへの反転です。
今後は、この状況が進行することが懸念されます。
深化、激化する恐れも憂慮されています。
スタグフレーションは、ハイパーインフレの引き金になることさえあります。
1990年代を中心に起こった、ロシア、アルゼンチン、トルコが適例です。
警戒が必要です。財政当局には、迅速、効果的な対応が求められます。
世界的には、サブプライム問題も深刻な様相を示しています。
いまだ解決の見通しも立っていません。
行く手には暗雲が立ちこめています。
前述した資源の高騰も、サブプライム問題が深く絡んでいます。
サブプライム問題が呼び水となり、雪崩を打ちました。
ローン市場、証券市場、株式市場へ投資・投機されてきた資金の大逃避です。
石油や商品先物などの市場に、大規模に、一斉に流れ込んでいます。
世界的な危機は、一層拡大する恐れがあります。
とりわけ、金融危機です。
そうなると、日本への負のシナジー(相乗作用)も懸念しなければなりません。
最悪のシナリオです。
資産家、ファンド、投資機関などによるマネーゲーム、マネーギャンブルが庶民の生活を窮地に陥らせるという構図がここでも発生しています。
再び、巨大マネーの横暴が、額に汗する庶民の生活を掻き乱そうとしています。
マネーの暴力です。マネーモンスターの襲来と言ってもいいでしょう。
そうならないことを祈るばかりです。
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