●親の所得と子の学力は、なぜ比例するか?
東大生の親の所得が高いことが話題になりました。
親の経済力が豊かなほど、学力を高めることができ、東大にも入れるというものです。
お金があれば、十分に恵まれた教育を受けることができ、当然学力は高くなるという考えがその根にあります。
これは、機会の平等を主張する議論にしばしば利用されてきました。
親の経済力の格差が、子供の受ける教育に差違を生じ、子供の平等な競争が阻害されるというものです。
親の財力の格差のため、スタート時点ですでに子供に有利・不利が生じているということが問題になりました。
しかし、親に所得格差があるから、本当に学力格差が生じているのでしょうか?
事実は、むしろその裏面にあると考えます。
つまり、親の学力格差こそが子供の学力格差をもたらしているということです。
親の所得格差は、親の学力格差の1つの結果であり、表れにすぎません。
学力格差は、所得格差に強い正の相関を持ちます。
学力が高いほど、所得が高くなります。
それは、医師、弁護士、会計士などの専門家、企業の経営者、高級官僚、大企業の管理職などの所得と学歴との関係を考えても、容易に理解できるでしょう。
つまり、所得が高い親ほど学力が高いと言うことです。
この親の学力は、子供の学力に大きな影響を及ぼします。
強い比例的関係を持つということです。
親の学力が高ければ子供の学力も高く、親の学力が低ければ子供の学力も低くなります。
例外もありますが、たいていはそうなります。
親子の知能の相関については、ドイツの心理学者ラインエールの行った研究があります(両親約二六〇〇人と、その子供約一万人を対象)。
知能をABCの三段階に分けて調査しました。
その結果は、両親共にAの知力の場合、彼らの子供の72%はAのランクになり、両親共にCのランクの場合、彼らの子供がAランクになる確率は5%でした。
各種の統計的数値や経験則から判断しても、子供の能力が両親のそれを乗り越えて上位または下位に位置する場合は、それぞれ一,二割程度です。
大きく超える場合は、それぞれ数%程度しかありません。
階層を広げれば広げるほど、最上下位に属する子供の割合は小さくなります。
つまり、親の所得が高いから東大に入れているわけではなく、親の学力が高いから東大に入れているのです。
高所得はあくまで、二義的、表象的なものに過ぎません。
逆に言えば、親の学力が高くなく、その資質を受け継いでしまった子供は、いくら豊かで恵まれた教育環境を与えても、東大など一流大学には入れないということです。
従って、教育の機会均等を実現しても、学力格差が埋まることはないでしょう。
結果の平等には、ほとんど何の好影響も与えないでしょう。
これは、教育の機会均等は、現在、拡大し、深刻化している経済的格差を緩和するには有効な手立てにはなり得ないということを意味します。
階層を大きく上下できるようなダイナミズムを社会にもたらすことは決してありません。
結果の不平等、つまり経済的な格差は、教育の均等では決して縮小することがないでしょう。
競争至上主義を肯定し、弱肉強食の社会を容認している限りはそうなります。
それは理解しておくべきです。